2004年11月23日

(HK)2004年11月22日の1000字日記


 夜10時にバスターミナルにて、いつものように止まっているミニバスに乗
り込んだところ、料金箱の前を二人の女の旅行客が占拠していた。運転手に英
語で何やら話しかけている。旅行客だと分かったのは、彼女達がスーツケース
と観光地図を持っていたからだ。お釣りをくれと彼女達は頼んでいるようだが、
この香港、そんなものはタクシー以外では出てはこない。
 彼女達は東洋顔をしており加えて英語を使っていたので、日本人か韓国人の
どちらかだろう。判明しないうちは声をかけないほうがいいと考えた。いや、
彼女達の身なりが派手で、一人なんかは腕にイモリかヤモリのタトゥーなどし
ていたから、ちょっと見送ったというのが正直なところだ。

 ミニバスが動き出す。ターミナルを出て10数階建ての古いビル群の中を通
り抜ける。それらを眺めて彼女達はおしゃべりを始める。曰く、
「本当に来ちゃったね」
「洗濯物があんなに高くに干してあるよ」
「なんか上野みたい」
 どの辺が上野なのかは分からなかったが、日本人のようだ。それにしてもど
うやら香港は初めての様子で、なぜわざわざこのローカルな交通機関に乗った
のかは謎だった。特にこのミニバスは始発こそターミナルであるが、やがてど
んどんと都会から離れていくのだ。
 だから、いざ街から外れだしたら彼女達に声をかけようと決めた。何のこと
はない、彼女達は後ろに座っているのだから、振り返って、
「どこで降りるのですか、大丈夫ですか」
と尋ねればいいのだ。親切な日本人として普通のことだ。

 ミニバスは繁華街を通過していく。黄や赤や緑のど派手な看板が道路にはみ
出してぶら下がっている、典型的な下町だ。急に車体を左に揺らしてミニバス
が止まる。ドアが開き堰を切ったかのように客が乗り込んでくる。そんな状態
の中、彼女達は突然、
「降りよっか」
と言って、人の流れに逆らいながら降車していった。

 結局、声をかけることはなかった。まあ、二人連れで楽しんでいたようなの
で、しゃしゃり出るのは野暮だったかもしれない。次の機会、例えば女の人が
一人だけで、本当に困っている様子ならば話しかけたほうがいいだろう……。
 と、ここまで考えた時に、もし一人ならば独り言でもない限り日本語を使わ
ないだろうから、乗り合わせたとしても話をする機会なんて生まれないだろう
なあ、なんて気付き、その後、そんなふうに無駄に心配したり残念がったりす
る自分が滑稽に思えてきた。

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