2005年5月21日

(HK)製造業ですから

 工場に勤めたことがある人ならご存知かと思うのですが、『5S』という運動があります。5つの活動――整理・整頓・清掃・清潔・躾――のローマ字が全部Sから始まっている、という思いっきりジャパニーズでこじ付け的な由来を持つそれは、生産性向上の手段です。
 いや、『5S』、大事だっていうことは十分分かっているんです。部品や書類を探すのに小一時間かかってしまったり、ぐちゃぐちゃで片付いていない机の上ではんだ付けしていてヤケドしかけたり、私も色々体験していますから。やろうという気持ちはあるんですけど……。何となく親の小言と一緒で、明らかに正しいがゆえに何となく素直に取り組めなかったりします。

 この『5S』を、今いる香港の会社でも推進することになりました。従業員が会議室に集められ、パワーポイントを使ってありがちに説明がなされました。広東語で話されたので私はすぐに部屋を出てしまったのですが、聞いた話だと、机の上に仕事に関係ないものを置くな、通路は安全のため開けておけ、といったお達しが出たそうです。そして最後に問題用紙が配られ、
「今日の内容が理解できているかをテストするので、後日回答して提出するように」
 と言われたそうです。
 それを聞いて、私はなんだかなあ、と思いました。大事なのは大目標『生産性向上』なのに、と。個別にあれこれ注文をつけたところで意識の変化がなければ『カイゼン』は活きないのにな、と。まじめに取り組んでいないのにえらそうですが。

 一つ、面白いな、と感じたことがあったので、ミーティングから帰ってきた同僚に尋ねてみました。
「5Sって、なんで5Sなの」
 と。
 あっけにとられている彼の前で、私はペンを使い、整理・整頓・清掃・清潔・修養と書き、Seiri、Seiton、Seisou、Seiketsu、Syuyouとローマ字を付記しながら日本語の発音で読んであげました。だから『5S』なんだよ、と。部屋を出る直前にスライドに映し出されたそれらの文字を私は覚えていたのです。日本語と中国語で同じ漢字なんだなあ、と驚いたので。
 ところが、広東語での発音は異なるので、もはやSではなく。また後で調べて判明したことですが、『躾』は日本で作られた漢字『国字』なので、中国でそのまま使うことは不可なのでした。

 ところで、すぐに逃げ出した私ですが、ペーパーテストだけはやらなければならないのだ、同僚はそう言うのです。彼はというと、どこからか仕入れてきた模範解答をひたすら写しています。五つの下線のところに「整理」・「整頓」……といった感じに。そして、私のほうに、
「お前はこの英語版をやれ」
 と言うのです。
 えっ、そんなこと、無理です! 日本語ならまだしも。
 仕方がないので彼が持っていた未記入の中国語版を奪い取り、質問の意味を理解しないまま機械的に、私も漢字を書き写し始めたのでした。
「こんなのは『5S』なんかじゃない」
 と心の中で思いながら。

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