昼ごはんを食べようと思って、適当な格好で部屋を出ました。エレベーターに乗り込むと中には先客の男女がいました。何か話しています。聞き耳をたてるつもりはなかったのですが、なにぶん狭い空間ですし――おまけに日本語だったので、結果的にその人たちのプライベートな生活がうかがえてしまったのです。
私が日本人だということはバレておらず、また私が恐縮する必要も全くないのですが、なんとなくいたたまれなくなりました。そこで、エレベーターがグラウンド・フロアについた途端、私は彼らよりも先んじて外へと向かったのです。
まわりの人が日本語を解さないだろう、と思い込んでいるためでしょう、かなり私的な内容や企業秘密っぽいことを雑踏の中で大声で話してしまう日本人をたびたび見受けます。きっと一種の開放感があるのではないかと推察します、そういう行為には。
ところで、私の住まいには管理人さんがいます。彼にはいつもお世話になっています。私は朝と晩きちんとあいさつしています。
で、彼は今日もにこやかに扉を開けながら、
「こんにちは」
と私に日本語で語りかけるのです。私は後ろにいる男女の驚きの視線を感じつつ、平穏を装ってあいさつを返したのでした。
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