2003年7月24日

高速道路の朝……作者(あ) (2003.07.24; 1000文字)


 予定の時間より早くこぎ始めたおかげで、マサよりも先に進んでるはずだ。
今のところ上り下りがないので、バッテリーもあまり減ってない。少し汗を
かいてるけど、これくらいは大丈夫だろう。
 後ろから車の音が聞こえる。それはだんだんと大きくなり、やがて車は僕
の横を猛スピードで通り過ぎていく。風が一瞬吹き、そのせいで僕の電動自
転車はふらふらする。また一台来たみたいだ。怖いけど振り返らないで、ハ
ンドルをしっかり握ってやり過ごす。今度はクラクションを鳴らされた。こ
こは高速道路だから、そもそも自転車で走ってる僕が悪い。
 一体、何でこんなことをするのかさっぱりわからない。ただ「六年の夏休
みにはみんなやるんだ、転校生は知らないかもしれないけど」とマサが言う
から、そして「弱っちい奴はやらなくてもいーよ」と付け加えたから、カッ
となって僕もやることにしたのだ。みんなといったって、うちの学校の六年
は僕とマサとキダだけで、キダは女子だからやらない。だから僕は絶対やら
なきゃいけない。でも参加したいってことを、マサには言えなかった。
 長い坂を上り終えた。下りでは節約のためにバッテリーを切り、自分の足
でこぐ。しばらくはあまりスピードが出なく、重く感じる。時計を見ると、
もう一時間近くこぎ続けていた。マサが教えてくれたスタート時間からは三
十分ぐらいたっている。マサは僕をバカにしてたくせに、この冒険を始める
時間を僕に教えてくれた。

 後ろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。ちらっと後ろを見ると、マサがす
ごい勢いで追いかけてきていた。そして叫ぶ。
「医者に止められてるんじゃねーのかよ」
 僕も言い返す。
「じゃあ、何で出発の時間教えるんだよ」
「ずるい自転車乗ってんじゃねーよ」
 マサは僕の質問に答えなかった。横にマサが並んだので、僕は心配して言
った。
「おいそこ、危ないってば」
「わかってるよ」
 僕の注意をちっとも聞かずに、マサはこっちを向いて続けて言う。
「また引っ越して、別の中学に行くって本当かよ」
 マサがそんなことを気にしてるとは思わなかった。激しくクラクションを
鳴らしながら、トラックが僕たちを追い抜いていく。
「いいだろ、別に」
「よくねーよ」
「何でだよ」
 マサはちょっとどもった後、大声で怒鳴った。
「キダのこと好きじゃねーのかよ」
 やっぱりマサは好き勝手にしゃべる。だけど僕は今初めて、マサのことが
ちょっとわかったような気がした。

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